ヨーロッパでの着物展としては初、ヴィクトリア&アルバート博物館の大規模展覧会
ヨーロッパでの着物展としては初となる大規模展覧会「Kimono:Kyoto to Catwalk」。本展は 2 月 29 日に開幕したものの、コロナウイルスの影響によりヴィクトリア&アルバート博物館の臨時休館をしていたため 3 月中旬から中断されていた。8 月 27 日より再開されてから、11 月になった今でも大盛況で予約をとっても1ヶ月以上待つのが当たり前という状態だ。※ロンドンの美術館・博物館は全て予約制で、行く時間を選んで事前にウェブサイトから申し込む必要がある。
イギリスの美術館・博物館は全ての人が楽しめるように、そのほとんどが入場料無料になっているが、本展のようなハイレベルな企画展は有料だ。今回、私は一緒に住んでいるイギリス人のフラットメイトがヴィクトリア&アルバート博物館の会員だったため、ありがた いことに無料で見ることができた。
本展では、17 世紀 18 世紀の着物や、国際的なデザイナーのファッション作品、そして映画やパフォーマンスの衣装などを紹介していた。現代デザイナーやスタイリストが伝統に敬意を表し、着物を再解釈した作品も見ることができた。
入った瞬間から素敵な空間演出。オーガンジーのような生地をレイヤー状に大胆に吊るし、まるで水中に差し込んだ光の先に上品で繊細な着物が輝いて見えてくるような演出だった。
入り口に展示されていたのはこちらの3着。実はこれらの着物は、この展覧会のコンセプトを表したものなのだ。左から、1800〜30 年代に京都で作られたのではないかと伝えられている振袖、ジョン・ガリアーノによる「ディオール」の 2007 年春夏オートクチュール作品、東京コレクションにも参加している「ジョウタロウ・サイトウ」の 2019 年の作品。着物の歴史と今、着物の影響を受けた西欧の作品というこの展覧会の主旨が一目瞭然となっている。
展示は時系列的にグループ分けされており、それぞれのコンセプトに合わせ空間の演出に変化をつけていた。その中で複数の空間に使用されていた素材が和紙だ。1つ共通した素材があることによって、着物の歴史を物語としてみている感覚になり非常に見やすく、空間によって和紙の見え方が変わってくるのも面白い。
17 世紀中頃に始まる贅沢な着物の数々
素朴でシンプルだけど、存在感があり圧巻の総絞り。伝統美の極みだと再確認した。
1860〜80 年の装飾用の着物で、有名人として扱われた高級売春婦(花魁)が着ていたものだそう。インパクトのあるダイナミックなデザインと足元の巨大な厚底に多くの人が興味津々だった。
20 世紀初頭のヨーロピアンデザイナーによる着物風の作品
鏡を利用した展示。見応えがあり、とても素敵だった。ぐるぐると何度も回って、あらゆる角度から見える個性豊かな着物の柄の移り変わりを楽しんでいた。
こちらは、日本からイギリスへの最初のフライトが就航した時の記念品だそう。政治や流行がダイレクトに素材や柄に落とし込まれている。
ミュージシャンが着た着物やキモノドレスのコーナー。強烈な印象を残した着物だった。中央はマドンナが着た「ジャンポール・ゴルチエ」のキモノアンサンブル(1998 年)、右はビョークがアルバム「ホモジェニック」のジャケットに着用している「アレキサンダー・マックイーン」のキモノドレス(1997 年)。そして、左はフレディ・マーキュリーが愛用していた着物である。
最後に、個人的に一番好きな着物の紹介。
1873 年にエリザベス・スミスが着用したファッショナブルな夏の着物。1860 年代 1870 年代に英国で入手できた多くの日本の衣服と同様、上流階級の女性のために作られた高価な着物だそう。
モチーフは藤で、華やかさと上品さが兼ね備えられていた。刺繍の面と線の表現のバランスが絶妙で見ていて飽きない素敵なデザインだった。
帯をつける文化までは輸出されなかったのか、それとも着物を固定したかったのか・・いずれにせよ海外ナイズされて小さなボタンが取り付けられている。
19 世紀後半から 20 世紀にかけてはポール・ポワレやマドレーヌ・ヴィオネがデザインしたキモノドレス。コルセットによるウエストの締め付けから解放された、ゆったりとしたレイヤードスタイルが特徴。
この展示で唯一あった CG 映像。部分部分がどう縫い合わされているかを示していた。
世界に誇れる日本の着物文化の大集成。こんなに新鮮な気持ちで着物にときめくとは思わなかった。この展示を慣れ親しんだ日本で見るのと、半年以上生活をした海外で見るのは大きく違うと思う。また、一緒に住むイギリス人と回ることで感動した生のリアクションを肌で感じることができるところも新しい感覚だった。江戸時代のシンプルで控えめな着物に感動しているフラットメイトや海外のお客さん達を見て、日本文化の技術力・世界への影響力の高さを実感すると共に、祖母から代々受け継がれた総絞りの着物の価値を再確認することができた。