つなぐPROJECT

左 時枝の、魅力を語る。Vol.2

多彩な顔をもつ左時枝さん(1)

ガーデナー左 時枝

時枝さんからは時々LINEで自宅の庭の様子が送られてきます。時枝さんはお花を活けたり庭いじりが大好きで、かなりの腕前。NHKのEテレの園芸番組にも出演したことがあります。お母さんがお花の先生だったこともあり、生活に花は欠かせなかったようです。ご主人の市田喜一さんが担当したCMのセットの大掛かりな花を活けたこともありました。

現在は入り口の駐車スペースも、庭として活用。両側いっぱいのお花や植物にワクワクします。
2013年に訪ねた時の庭。今と比べると随分植物が少ないですね。
「素敵な白いテーブルと椅子を購入したのよ」と送ってくれた時枝さんの写真。
今にも雨が降りそうなお天気だったので、この席でのティーパーティは断念し、とりあえず座って雰囲気だけを・・・

あれから自宅の庭づくりはますます加速したようで、駐車場もベランダも植物でいっぱいになっていました。外からはあまりわからないのですが、まるでここは「秘密の花園」。小さなスペースが実に上手に活用されています。そこに可愛い白いテーブルと椅子が置かれていて、ここでお茶するのが今日の目的。しかし、今にも雨が降りそうな雲行きなので、ガーデンパーティは断念して、お庭のお話を伺った後は、お部屋の中で、お庭を眺めながらということになりました。

実用性と遊び心、経年の美しさ

驚いたのは、たくさんの寄せ植えや珍しい植物はもちろんのこと、吊り下げられているポットも手作り。ベランダは目隠し用に垣根のようなグリーンウォールが作られていますが、よく見ると、本物の植物に混じり、隙間を埋めていたのはなんと、イミテーションの植物。

手作りのポットや、寄せ植え、珍しい花を説明してくれる時枝さん。話し出したら止まらない。
麻素材を購入し、針金などで枠を作った、手作りポット。
この垣根(グリーンウォール)に感動!目隠し用に隙間を埋めるために100円ショップのイミテーショングリーンが部分的に使われている。どこかわかるかな?

「これは100円ショップのものなのよ。100円ショップには、いろいろ利用できるものがあり、楽しいわよ」時枝さんのお庭は、いたるところにアイデアがいっぱいで、いくら見ていても飽きません。

すでに咲き終わったテッセン。「この枯れた感じが良くて、わざと残しているのよ」
う〜ん、わかるわかる♪

そして今日の時枝さんの服装は、久留米絣のモンペに、麻のパンツをリフォームしたエプロン。もちろんこれもご自分の手製です。モンペがいかに履きやすく実用的かを熱く語ります。知らない方が見たらどこかの“農家のおばさん”かもしれませんが、私たちに映るのは“なんとカッコいい女性かしら!”なのです。時枝さんは、実用的な価値、使い込まれた美しさを知っている人で、その価値観や美意識が私たちは大好きです。

市田さんの製作したオブジェもあちこちに!いい感じに朽ちています。
モンペに麦わら帽子が、ガーデナー時枝さんのスタイル(2013年撮影の写真)

骨董店の実家で培った料理と器好き

部屋の中もベランダも植物でいっぱい!この机が時枝さんのお気に入りの場所。
ベランダのお花を眺めながら楽しいおしゃべりと食事
時枝さんはキッチンで料理中!私たちはひたすら飲んで食べるだけ・・・

今日の目的は、お酒を飲みながら、楽しいおしゃべりをすること。時枝さんは、素敵な器にささっとすぐに摘める料理を出してくださいました。テーブルのガラスの下には、お孫さんたちの写真や手紙、絵などがたくさん敷かれていています。

「ああこうして、いつもみんなと一緒に食事しているのね」
私たちまで嬉しくなります。

手際よく作って、ささっと出してくれる。このさりげなさがいいなあ・・・
上2点の料理の写真はアートディレクターの辛嶋さんの撮影。さすがいい写真!!

メインは、前回ご紹介したゴージャスな冷やし中華。デザートの杏仁豆腐も美味しかったなあ・・・

時枝さんのお料理好きもお母さんのDNAを受け継いでいるようです。富山の実家は骨董店だったそうです。富山は北前船も寄港する裕福な土地。骨董店には北前船から運ばれる価値の高いものも多く、お客様も地元の富裕層でした。当時はそういうお客様がいらっしゃると、お母様は店の奥でお料理を出しておもてなしをするのが習わし。なのでお料理の腕前も料亭並とか。そういう家系だったので、お姉さんの左 幸子さんも器の目利きであり、いいものをたくさん持っていたそうです。お料理もとても上手で、お客様はご自分の手料理でおもてなししていたといいます。

画家としての左 時枝

制作中の時枝さんの絵。

時枝さんにとって「花」は自分の人生と切っても切れない存在です。油彩は約25〜26年前より描き始めました。時枝さんが強く惹かれて描き始めたのも「花」でした。大胆で枠に収まりきれない花の絵です。時枝さんの絵は、メラメラとした生命力があり、実にエロティックでもあります。ご主人の市田喜一さんも時枝さんの個性を認めていました。絵を描くことをさりげなくすすめてくれたのも市田さんです。
どうして絵を描き始めたのかを伺ってみました。

「自分のテーブル・・・自分だけの場所が欲しかったの」

ドラマや映画の女優業は、協業ですが、絵は自分一人で自分の思うように描き、完結させることができます。それがとても気持ちく、どんどん制作にのめり込んでいったのです。

初めて絵を描いたのが、これ。モネの模写でした。
これが本物のモネの絵『ドーヴィルの海岸』の複写。これを時枝さんは模写したといいます。

時枝さんが、一番最初に描いたという絵を見せてくれました。
「モネの絵の模写なのよ。風に吹かれて耐えているようなこの絵が、どうしても目に焼き付いて、描きたくなったの」

私たちも初めて見るモネの絵でした。あとで調べたらこれはクロード・モネの『ドーヴィルの海岸』というタイトルの絵でした。長い間、風に吹かれ、耐えてこのような姿になったのでしょうか。時枝さんが絵を描く大きな転機となった記念すべき絵です。

2015年受賞時。撮影したのは時枝さんと同じ創展に所属している佐藤清勝さん。

時枝さんの絵は、とても評価が高く、2015年 第45回創展の文部科学大臣賞を受賞しています。個展や2人展などの展覧会も人気があり、画家としての知名度も上がっています。時枝さんの作品を少しご紹介します。

こちらは2018年7月に青山で開催した、時枝さんと同じ創展に所属している佐藤清勝さん(首藤さんのご主人です)との2人展『おしゃべりな花たち 左 時枝×佐藤清勝』。花をテーマにした展覧会です。オープニングパーティにはたくさんの仲間が集まり、楽しい時間でした。この様子は、Textile-Treeのブログでも紹介しています。
https://textile-tree.com/blog/flower/

左が時枝さんの絵。右が佐藤さんの絵。
たくさんの花に囲まれた気持ちのいいギャラリー
オープニングパーティの時の時枝さん

下の写真は2020年10月に、新宿小田急百貨店で開催された個展『お騒がせな花たち 左 時枝 油彩展』。この日は池袋で上映されていた、時枝さんが出演している『瞽女GOZE』を見て、その足で伺いました。“時枝さんデー”となりました。

シンプルな服装に大胆なアクセサリーが素敵です!
時枝さんの画歴

時枝さんとお会いするたびに感じるのは、ファッションのセンスが実にいいことです。残念ながら、TVやスクリーンで見る時枝さんは、近所のおばさんだったり、時代劇のお姑さんなどの役が多く、おしゃれな時枝さんを見ていただく機会はなかなかありません。次回は時枝さんのファッションのことや、趣味の域を超えている手芸家としての左時枝、そして女優・左時枝のことをお話しします。

文・写真:つなぐProject/成田典子