多彩な顔をもつ左 時枝さん(2)
左 時枝のファッション観
私たちは時枝さんのファッションが大好きです。今は髪の毛もグレイヘア。年配の役が多いので、染めないようにしているそうですが、そのナチュラル感が時流にあっていて素敵なのです。8年前、時枝さんに初めてお会いした時、カジュアル感のある服装になんてオシャレな人なんだろうと惹きつけられました。ご主人の市田喜一さんも、さりげないセーターとジーンズですが、よく見ると袖も見頃も全部色違いで、ソックスが綺麗なオレンジ。カラーコーディネートがさすがです。2人とも「ちょっとおしゃれな日常感」が見事に醸し出されているのです。
今回訪問した時の時枝さんは、久留米絣のモンペに麻のパンツをご自分でリフォームしたエプロンスタイル。取材や撮影目的ではないので、とてもリラックスした日常着です。「ガーディニングや絵を描いたり、手芸をするにはこのスタイルが一番よ」。そう言って着心地の良さと、リフォームの形跡を楽しそうに説明してくれます。
時枝さんのこういうスタイルを見るのは、初めてでした。
私たちが知っている時枝さんは、一緒に食事したり、展覧会でお会いする時が多いので、もっと「よそ行き感」が漂っています。「さすが女優さん」と感心することが多く、オーラがあるのです。かと言って、いかにも「ブランドを着飾っています」というようなスタイルではなく、いつも肩に掛けているポーチはご自分のお手製。その時の目的と洋服に合わせて、実用性とオシャレを上手にコーディネートするのが“時枝流”なのです。
「展覧会では、両手が使えるポーチが一番便利なのよ」。時枝さんは、ポーチにスマホやお財布、ハンカチ、お化粧品など最少限の必需品を入れています。中でも“畳のへり”を利用して作ったバッグは、軽くて丈夫で色柄も豊富で、大のお気に入り。私たちもプレゼントしていただきました。
バッグづくりが特技の手芸家・左時枝
実は時枝さんは、バッグづくりが趣味。捨てられない洋服や、貴重なテキスタイルを使用するのです。10年ほど前からは、染織家の大嶋夕子さんの織ったテキスタイルでバッグを制作し、二人展も行なっています。自由な発想で、バッグに装飾を施したり、持ち手にも楽しい工夫が見られます。
「生地を色々並べてみて、どんなバッグにしようかと考える時間が、一番楽しいのよ」
私たちは、今回初めて「手芸部屋」を見せていただきました。こんなお部屋があるなんて知りませんでした。アート関連の本などがたくさんあるので、もしかしたら市田さんのお部屋だったのでしょうか。奥にはミシンが置かれていて、材料が入っているボックなどが積まれています。そして市田さんの写真や作品も。
昨年からはマスクもたくさん作りました。中にスパンコールがたくさんついたエレガントなマスクがあります。昨年12月に行われた、映画『大コメ騒動』の舞台挨拶の時につけようと思って製作しましたが、今回は使用しなかったようです(これつけた姿をいつみられるのかな?)
女優・左時枝
最後に「女優・左 時枝」のことを。時枝さんは、この年代の方なら知らない人はないくらいの大女優・左 幸子さんの妹です。時枝さんは五女で、長女の左 幸子さんとは17歳の年の差があります。映画デビューは11歳の時。左 幸子さんが出演されていた『荷車の歌』で、左 幸子さんの少女時代を演じました。たまたまお姉さんについて撮影所に行ったら監督に見初められたのが女優の道に進むきっかけになったようです。現在も女優として映画やTVで活躍されています。2020年は映画『瞽女GIZE』、今年は映画『大コメ騒動』などに出演し、時代劇が似合ういい味の年配女性を演じています。
映画やTVの世界では、年配の女優さんは、なかなか活躍する場が少なくなっているようです。しかし、最近はバイプレーヤー(脇役)が注目される時代でもあります。時枝さんのように、キャリアを積んだ味のある女優を活躍させないでおくのは、もったいないなあと感じます。
最近は「おばあさん」役が多いようですが、時枝さんはとても色気のある女優です。それは時枝さんが描く花の絵を見てもよくわかります。絵には自分の本質的なものが出るといいます。このメラメラとした「左 時枝の“女”」をぜひ引き出して欲しい。左 時枝は、そういう怪しげな魅力を持っている女優なのです。ファンとしては、歳を重ねたからこそ出せる「女の凄み」を左 時枝に見たいのです。このことを監督やプロデューサーの皆さんに切に訴えて、「左 時枝の、魅力を語る」を締めくくりたいと思います。
文・写真:つなぐProject/成田典子